いいんだよ、元気ならそれでいいんだから、と母が私の言葉を制する。そのあとは博人を紹介した。会社の先輩であり、高校時代の先輩である博人。つきあって3年になる、と。博人は畳に両手をつき、お決まりのセリフを言った。隣で正座していた私も一緒に頭を下げた。

すすり泣く声。立ち上がったのか畳のきしむ音。押入れを開ける乾いた音。母の足音とともに現れたのは白く輝く布。それをゆっくりと見上げる。キラキラと輝くドレスだった。


「梢恵はいつもおさがりだったからね。ドレスぐらい新品を用意したかったんだよ。小学校の入学式の時の笑顔が忘れられなくてね。もし梢恵が恋人を連れて帰ってきたら見せようと思ってた。どうだい? 気に入ってくれるといいんだけど……」


私は垂れ下がるドレスの裾をすくった。とろりとしたやわらかい生地、その上に重ねられたレース。母は繕い物は得意だった。でもこんなに手の込んだものを作るには時間も必要だったことだろう。


「母さん……」


「うちはこのとおり貧乏だからね、梢恵が結婚するときも大きなことはしてやれない。でもドレスなら生地さえあればできるから。梢恵が気に入ったらでいいんだよ。無理に」
「気に入らないはずがないじゃない!」


*-*-*

1年後、私たちは式を挙げた。決して大きくはない、結婚式場。母も弟も親族も呼んでささやかな式を挙げた。手縫いの純白のドレスに身を包み、私は胸を張ってバージンロードを歩いた。



(終わり)