来るときに見かけたツインテールの女の子に自分の幼い自分を思い出した。水色のワンピース。デパートで両親が買ってくれた新品のそれ。そういえばひっかかる。ランドセルも体操着も中学や高校の制服もおさがりばかりだったのに、何故ワンピースは新品だったんだろう。
「懐かしい?」
「小学校に入学するときに両親が水色のワンピースを買ってくれたの。その色を思い出したから」
「ふうん。それを着た梢恵の写真見てみたいな」
「実家にならあるかもしれない」
「これから見に行かないか?」
実家……。雨の日は部屋の中でも雨が降る古い平屋。カビの臭いのする壁。狭い台所。すり切れた畳。あんなところに博人を連れて行くわけにはいかない。
「でも遠いし」
「ここから車で1時間くらいだろ?」
「連絡してないから行ってもいないかもしれない」
「なら今、電話してみたら?」
博人の魂胆は分かっている。母に会って言うつもりなんだと思う。私が返事をしないから。ずっと濁してきたから。私には結婚する資格なんてない。こんな素敵な人に似つかわしくない汚れた体だから……。
そもそも実家には帰れない。もう、あの家を、いや、親を捨てて出てきたも当然だから。
私は水色のドーナツにかぶりついて返事をごまかした。アイシングの上のカラフルな粒が口の中ではじけた。ソーダのようにシュワシュワと音を立てる。そしてドーナツ生地はサクサクとして。
もうひとくちかじろうと口を開けると不意にドーナツは消えた。
「梢恵」
「懐かしい?」
「小学校に入学するときに両親が水色のワンピースを買ってくれたの。その色を思い出したから」
「ふうん。それを着た梢恵の写真見てみたいな」
「実家にならあるかもしれない」
「これから見に行かないか?」
実家……。雨の日は部屋の中でも雨が降る古い平屋。カビの臭いのする壁。狭い台所。すり切れた畳。あんなところに博人を連れて行くわけにはいかない。
「でも遠いし」
「ここから車で1時間くらいだろ?」
「連絡してないから行ってもいないかもしれない」
「なら今、電話してみたら?」
博人の魂胆は分かっている。母に会って言うつもりなんだと思う。私が返事をしないから。ずっと濁してきたから。私には結婚する資格なんてない。こんな素敵な人に似つかわしくない汚れた体だから……。
そもそも実家には帰れない。もう、あの家を、いや、親を捨てて出てきたも当然だから。
私は水色のドーナツにかぶりついて返事をごまかした。アイシングの上のカラフルな粒が口の中ではじけた。ソーダのようにシュワシュワと音を立てる。そしてドーナツ生地はサクサクとして。
もうひとくちかじろうと口を開けると不意にドーナツは消えた。
「梢恵」