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父も母も中卒だった。正確に言えば父親は工業高校の定時制に入学したが卒業はしていない。学校の授業についていけなくなった父親は1年生の秋に中退して近くの自動車修理の店に勤め始めた。修理の腕は確かだったが、口数の少ない父は顧客とのコミュニケーションが苦手で黙々と車の下に潜ってはねじを締めていた。母親も家庭の金銭的な事情で進学はできず、中学卒業後は洋菓子店で働いた。焼きあがったパンを得意先に届けるのが仕事だった。普通自動車の運転免許すら持っていなかった母はパンを詰めたかごを背負い、歩いて届けた。配達のないときは店番をした。

そんな二人が結婚するのは自然の成り行きだったと言えた。洋菓子店の店主と自動車修理工場の店主同士が知り合いで、それぞれの従業員だった二人を引き合わせた。見合いだ。断る理由もなく、若い二人は籍を入れた。ふた間しかない古い平屋の一軒屋を借り、やがてふたりの子宝に恵まれた。