「だから大丈夫だよ。落ち着いて、心を込めて、決められた文章を読み上げる。それは主人公じゃなくても脇役でもおなじことだし、劇をやる上ではいちばんたいせつなことなんじゃないの? 上手にしゃべろうとする前に、伝えたい気持ちを前面に出したらどう?」
伝えたいことを、前面に……。
そうか。ぼくは上手にしゃべろうとするあまり、伝えることを忘れていた。つっかえて他の子に指摘されるのが怖くてそっちにばかり神経を削りすぎていた。
「ほら、坊主。牛乳も飲んで行けよ。牛乳の生産量は北海道についで2位だ」
「栃木市が?」
「栃木県だけどな」
「ふうん」
瓶の牛乳を飲み干して、ぼくは最後にお礼を言って歩き出した。もちろん学校に戻るためだ。もどって劇の練習をする。あの物語で作者が言いたかったことは何だろう。先生の脚本が伝えたかったことは何だろう。