おにいさんはワゴン車の横に長机を広げると、そこにドーナツをならべ始めた。ぐるぐると渦を巻いたドーナツは直径15センチくらい、ふつうのドーナツの倍ぐらいの大きさだ。透明の袋に入れたドーナツたちが天板を埋めていく。おにいさんの背後をじっと見つめていたのが伝わったのか、彼は振り返ってぼくを見た。


「こっちにきて見てごらんよ」
「あ、う、うん」
「今日は特別に1個サービスしてあげよう」
「え、でも」
「いいから、いいから。おいで」
「う、うん!」


駆け寄ってぼくはそのドーナツたちをながめた。縦に4個、横に20個以上、ざっと計算して100近くはあった。ホワイトチョコの上にクッキークランチがまぶされたもの、いちごチョコの上にドライフルーツが散りばめられたもの、ミントチョコっぽいのや、キャラメルチョコ、粉糖だけのもの、とかいろいろあった。確かにどれひとつとして同じトッピングはない。ぼくの好きなアーモンドダイスのもあるし、ちょっと苦手な抹茶もある。

確かにどれひとつとして同じタイプはない。
でも行き当たりばったりなイメージはぬぐえない。だって、たとえばこれ。ちょっと得体のしれないものがあった。茶色の味噌漬けの大根を細かくダイス状にしたものがホワイトチョコの上に乗っている。


「お、おにいさん、こ、これはなに?」
「これ? ああ、これはかんぴょう煮。ほらさ、とちぎってかんぴょうでしょ」
「そ、そうかもしれないけど」
「壬生の知り合いの農家から直接仕入れてんだよね。味付けはうちの母ちゃんだけど」