「あ、あたま、ぶつけたんですか?」
「ああ」
「だ、だいじょうぶ、です、か?」
「うん。そこの小学校の子?」
「はい」
「見かけない子だね、アッ!」
やせっぽのおにいさんは今度は足元にあった黒板の看板を蹴飛ばしてしまった。長い体をかがめてそれを再び車に立てかけた。
「“うずまきドーナッツ、1こ500えん、とってもおいしいよ、どれひとつとしておなじトッピングはありません” 。ふうん……」
ぼくは看板に書かれたチョークの文字を読み上げた。ドーナツの絵もチョークでカラフルに描かれている。いまにも飛び出しそうな躍動感のあるイラストで、ぼくはすごいと思った。
これが、願いのかなうドーナツ屋さん、か。でもお店の人はおっちょこちょいだし、いまいち信ぴょう性がない。女子たちが勝手にパワースポットにまつりあげた可能性もある。
「こ、ここのドーナツを、食べる、と、ね、願いがかなうって本当?」
「え? そんな噂があるの?」
「じょ、女子が言ってたから」
「だからかぁ。おとといくらいからこの車の前で柏手をうつお客さんが増えたんだよね」
なるほど、とお兄さんは柏手を打った。商売繁盛!商売繁盛!商売繁盛!と3回唱えた。空に向かってじゃない、車に向かってだ。それも自分の車じゃないか。やっぱりガセネタだ。