輝いたランドセルカバーをはずしてモモネは中から台本を取り出した。そして黒板の前にいき、顎をしゃくる。しょうがないから……その言葉がぼくの心にトゲをさす。ぼくがどんくさくて、もじもじしてて、なんにもできないから本当はぼくと練習したくないんだ。しょうがないからぼくと練習する。どうしてぼくが主人公に選ばれてしまったんだろう。こんな思いをするならやりたくなかったのに。

モモネの前にいくために、ぼくも台本をもってとぼとぼとと歩いた。ひとつひとつ違う床の模様を眺めながら。30センチ四方の正方形に切り取られた天然木が張り合わされている。明るいオークだったり、こげ茶にちかいいろだったり、ぎょろりとした目玉みたいな節があったり。

どうして同じ模様にならないんだろう。ぼくもみんなと同じ模様だったら、きっと、困らないのに。みなと同じようにどもらなかったら、こんなに惨めな思いはしなくてすむのに。


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練習を開始して2週間。地元のひとにも公開されるお楽しみ会は明後日に控えていた。学校全体が浮足立っている。合奏や歌を披露する学年はそれぞれに着てくる服や髪形を考えてうきうきしている。新しいワンピースを買ってもらったとか、大きなリボンを買ってもらったとか。男の子ならアニメキャラのトレーナーを買ってもらったとか。壇上にあがった娘や息子や孫の晴れ姿を見たいという大人のエゴだ。キラキラした冬の空気がぼくをさらに落ち込ませる。

なんでそんなに楽しみなんだろう。失敗することとかみんな考えたりしないんだろうか。

練習も、佳境をむかえている。