集合は7時半だった。でもぼくは7時に来た。それは意気込みとういよりはほかの人に迷惑をかけたくないという気持ちからくるものだ。とちって低学年から笑われたらどうしよう、とか、モモネや俊平たちに無視されたらどうしようとか、そういうことに重心を置いていた。劇が成功するとか地域のひとに認められたいとか、そんな高尚な考えはない。室内にもかかわらず、はあ、とため息をつくと白い霧ができて、陽だまりに消えた。ぼくは席についてランドセルから台本を出した。かじかんだ指先でページをめくる。


“かんとく、ぼくも野球をやりたいんです!、こんなに背が低くてもチームに入れてもらえますか?、うわあうれしい!、ぼく精一杯頑張ります!”

“ごめんなさい、ぼくのせいで試合に負けちゃって”


お尻からひんやりした椅子の冷たさが伝わってくる。僕のせいで試合に負けた……ぼくのせいで劇が台無しになった……ぶるぶると身震いした。いやだ、やりたくない。失敗するに決まってる。

がらがらがら。教室の前の扉が開いた。やってきたのはモモネだった。黒板の上の時計はまだ7時20分だ。モモネが決めた集合時間より10分早い。


「お、おはよ……」
「おはよう! あいさつぐらいドモんないでよ。まだ来ないんだみんな。ったくもう。しょうがないからふたりで練習しよ」
「あ、うん……」


モモネは自分の机に白いランドセルを放り投げた。ばふん、と音を立てて形が歪む。たしかあのランドセルは3つ目だ。モモネの使い方が荒くて、毎年のように取り換えている。冬の日差しをあびた白いランドセルはさらに輝いた。