ぼくはうつむいて机の模様を見つめた。やりたくないという精一杯の意思表示だ。すると隣の隣の女子が手をあげた。


「でも友則くんは、その……かわいそうかなって」
「なんだよ」と俊平くんの声。
「学校内だけじゃなくて、地域の人もたくさんくるんだよ。もし劇が失敗したら蔵の街小の4年生はダメだって言われちゃうよ。だって友則くん、どもるし……」


教室の中がクスクスという声でいっぱいになる。

そうだ、そうだ、友則はまずい、という賛同の声があがって、僕はみじめになった。でも同時にほっとしたのも事実だった。主役なんてぼくにはできっこない。どもってかんで、みっともない姿を小学校のみんなに、見に来る町のひとたちにさらけ出したくない。

主役をやらなくて済むなら、それでいい。体育館の壇上でみなに笑いものにされるくらいなら、いま、教室内で馬鹿にされたほうがましだ。今一瞬だけ耐えればいい。ぼくは膝の上で拳をぎゅうっと握った。


「じゃあどうしたらいいかしら……」久美子先生は困ったように低い声で言った。すると、はい!と元気な声で返事をしたのはモモネの声だった。


「先生、このお話を提案した人が主人公をするのがいいと思います」
「そうね。この話をいいと思ってあげた子が主人公をやってくれたらいいわね。みんな、どう?」