「……やっぱやめます」


勇樹はしおれた朝顔の花のように小さく席に座った。


「だれかいませんか?」


そのあとは誰も手を挙げなかった。しんと教室内が静まり返る。ぼくは久美子先生と目が合わないように下を向いて机の上の消しゴムを見つめていた。ぼくは、劇は裏方でいい。舞台に上がるのは幕が下りている間だけでいい。しゃべりたくなんかないからだ。


「立候補がいないなら、どうやって決めようかしら」
「くじ引き!」と万年補欠の隆太が叫んだ。直後バカ、とモモネに一蹴された。モモネ軍団にクスクスと笑われる。


「じゃあくじ引き以外になにがあるんだよ。じゃんけんとかなしだぜ」
「当たり前でしょ」モモネはどや顔で鼻を鳴らした。
「なにで決めるんだよ、テメー」と隆太が立ち上がって、隣の男子があわてて腕をつかんで引き下ろした。


「じゃあ、こういうのはどうかしら。先生はいろんな人に主役をやってもらいたいと思ってる。小学校に入学してから一度も主役や準主役をしたことがない人はいるかしら」


みんなは隣近所を見回して、主役をやったことのないクラスメートを探す。ぼくはもちろんそんな大役を引き受けたことはない。だれにも見つからないように肩をすぼめてできるだけ小さくなった。ざわざわした教室内が少し静かになって、ちらりと目線をあげると久美子先生と目が合った。というか、ぼくをじっと見つめている。そんなことされたら、みんなに見つかってしまうじゃないか。

あっ、という声をあげたのは俊平だった。


「いた! 友則、おまえやったことないだろ」
「そうだ、友則お前やれよ」