「――で、これをこうすると……」
「あ!出来た!」
一颯は食事を終えた後、琴子に頼まれて竜希と朝陽の宿題を見ていた。
何でも侑吾は理屈っぽく、汐里はすぐ手が出る、宙斗はアバウト過ぎるため弟たちは教えてもらいたがらないらしい。
上二人は想像通りだが、真面目そうな宙斗がアバウトな教え方をするとは意外だった。
「一颯君、教えるの上手だね!」
「兄ちゃん達とは違うね」
リビングで宿題をするチビッ子達に対し、上の兄姉はまだ晩酌の最中で、次男は母の手伝いで皿洗いをしている。
やはり、一颯には宙斗がアバウトな教え方をするとは思えなかった。
そんなチビッ子達の会話に、侑吾がほろ酔い状態で楽しげに笑う。
「ははは、宙斗は父さんに似てアバウトだからなー」
「真面目そうな見た目でめっちゃアバウト。それなのに、やることはやるんだよねー」
侑吾と汐里は珍しく仲良く酒を飲んでいる。
ビールとハイボールから始まり、日本酒と変わり、今はウイスキーのロックを飲んでいるというのに侑吾も汐里も平然としている。
ちなみに、ちゃんぽんは決してやってはならない。
千鳥足に二日酔い、記憶ぶっ飛びを経験した人はこの世にどれほどいるだろうか。
「ちょっと兄ちゃんと姉ちゃん!それ、褒めてるの!?貶してるの!?」
「「褒めてる褒めてる」」
「こういう時だけ仲良くすんな!仲良くするならいつもしてろよ!喧嘩止めるこっちの身にもなれ!」
キッチンから叫ぶ宙斗に飄々と弟の言葉を受け流す兄と姉。
うん、宙斗も間違いなく京家の人間だ。
キレる沸点と話し方が何処と無く汐里に似ている気がする。
さすがは姉弟。
「兄ちゃん達は良いよなー!お父さんの記憶あるんだもん!」
「おれに限っては産まれてないし」
「記憶があるのもなかなか辛いけどな」
汐里は立ち上がるとウイスキーが入ったグラスを持って、朝陽の方に歩いてくると頭を撫でる。
記憶があっても思い出がありすぎて辛い。
記憶が無くても思い出がなくて辛い。
人の死というものは辛いものでしかないようだ。