「何で……何で……」





汐里はその場に力なく座り込んでしまう。
こんなにも疲弊した彼女を見たのは初めてだった。
先に逃げていた捜査員も汐里の悲鳴のような叫びに駆け寄ってきた。
そして、一颯と汐里を火元に近いその場から引き離そうとする。





「京!浅川!離れるぞ、此処は危険だ」






「消防は!?」






「もうじき到着する。だが、崩壊する方が……」






一颯の問いに、一人の捜査員がそう答える。
可燃性の強い液体のせいで通常の火事に比べて火の回りが異常なくらい早い。
家の柱や屋根が燃える音、燃える匂いがする。
今にも崩れてしまいそうな家屋。
恐らく、消防の到着を待たずに崩れるだろう。





「京の恩師だったのか……」






「はい、誰よりも信頼していた教師だったと言っていました……」





「酷だな……」





一颯と捜査員の会話が汐里に届いてはいないだろう。
汐里はただ、燃え盛る炎を見つめていた。
目の前で自分の将来を決めるきっかけをくれた恩師が息絶えている。
炎に包まれ、苦しい思いをして。






自らの罪を戒めているようだった。
娘は殺され、焼死体で発見された。
娘を殺した犯人は刺して、生きたまま焼いて殺した。
犯人を殺した恩師は自ら火を放ち、死を選んだ。






――まるで、炎によって罪を浄化されることを望んでいるかのように。







「先生……」





汐里が見つめる中で、燃え盛る炎が家屋を飲み込み、轟音と共に焼き崩れた。
火柱が上がり、もう家屋の原型は留めていない。
中に取り残された恩師達は――。





「あ……ぁ……あぁぁあああああああッッッッッッ!!!!!」








汐里の目から涙が溢れ、慟哭が口を割った。
そんな彼女に声をかけられる者はいなかった。
一颯は泣き叫ぶ汐里の隣で血が滲むほど固く拳を握り締める。
怒りと憎しみが込み上げてくる。





「ペルソナ……」





アイツは人間を何だと思っている?
どんな気持ちで命を弄んでいる?
何故アイツは生きてていいのか?
アイツこそ死んだ方が――。
そう考えたところで、一颯ははっと我に返る。






「今、何を……」





一颯は自分の思考が恐ろしくなり、口元を押さえる。
以前ペルソナに言われたことを思い出す。
一颯自身の中にも犯罪思考が眠っているのだと。
まさにそれを実感した瞬間だった。