「先生!信乃さん!早く外に!浅川、先生を早く!」
汐里がそう叫ぶが、二人は一向に動きはない。
死ぬ気なのだと察する。
だが、一颯も汐里も二人を死なせる気はない。
「浅川、お前だけでも先に逃げろ!私が二人を連れていく!」
「危険ですよ!京さん!」
「良いから早く行け!」
一颯は外に出る最短である縁側に繋がる窓を近くにあった椅子でガラスを叩き割る。
破片で顔を切るが、構っていられない。
外の空気が中に入り、火の勢いが増しているように感じられた。
一颯は汐里の方を振り返った。
「先生、信乃さん、生きてください。そして、罪を償ってください」
「今日は鞠乃の命日だ。あの子は俺達を待っている」
「先生!」
「汐里、立派な刑事になったな。ちゃんと俺達を捕まえに来た。罪を償わせに来た」
窓の近くで三人が出てくるのを待つ一颯を仙石が一瞥する。
そして、優しげな笑みを浮かべた。
一颯が初めて彼に会ったときに見たそれと同じだった。
直後、仙石は汐里を外に向かって突き飛ばす。
「先せ……ッ!?」
「京さん!」
一颯は突き飛ばされて転びそうになる汐里を抱き留め、家の中を見やる。
中は既に炎に包まれ、仙石夫妻はそんな中に静かに佇んでいた。
そして、笑っていた。
「先生!何で、何でこんなこと……っ!」
汐里は二人を助けようと、中に飛び込んで行こうとする。
だが、火の勢いが強く近付けない。
一颯は構わず中に突っ込みそうな汐里を必死に止める。
「京さん!もう無理です!危険です!」
「私は捜一の刑事になった!先生を捕まえることを躊躇しない!なのに、何で捕まえさせてくれないんだ!?何で死を選んだ!?」
汐里の悲痛な叫びが響き渡る。
自分を救ってくれた恩師が罪を犯し、死を選ぶ。
人が馬鹿にしたようなことも応援してくれた恩師が人を貶し、殺した。
それが汐里には未だに信じられない。
「何で人殺しになんかなったんだよ!先生……っ!」
叫ぶ汐里を一颯はただ引き留めるしかなかった。
かける声は見つからない。
自分が親友を失ったときは彼女は立ち直る為の声をかけてくれた。
それなのに、汐里にかける言葉が見つからなかった。