「鞠乃は七歳で殺されたのに、何故あの悪魔はのうのうと生きている?人殺しなのに、未成年だからと何故罪が重くならない?」
仙石は汐里の方を見た。
その目は教え子に対して向ける優しげなものではなく、公僕たる警察へ向ける忌々しげなものだった。
警察は犯罪者や市民を守る正義の味方、そう言われることが多い。
だが、被害者遺族からして見れば、そうは見えないのかもしれない。
「警察もあの悪魔を捕まえてもそれ以上は何もしてくれない。司法も被害者家族よりも未成年犯罪者を擁護する。誰も俺達の気持ちを分かってくれない」
「だから、殺したんですか?」
「あの悪魔は殺されそうなとき何て言ったと思う?助けてくれって言った。大の大人が死ぬことに怯えていた。なら、幼かった鞠乃はもっと怖かったはずだ!助けを求めたはずだ!それなのに、殺されたんだ!」
仙石の悲痛な叫びに、汐里は固く拳を握り締めた。
父のような誰かを守り、正義を貫くことを信念に刑事をやって来た。
それなのに、汐里は守れなかった。
恩師の最愛の我が子を、元犯罪者の男を犯罪から守れなかった。
「……だからって、人を殺せば貴方も貴方が罵る悪魔と同じだろ!?」
「浅川!」
一颯は仙石の胸ぐらを掴み上げた。
汐里が引き離そうとするが、一颯の力は強かった。
誰かのために人を殺す人は誰かを思って実行する。
それは一颯も親友の死で実感した。
だが、それは人としてあってはならない。
決して賛同してはならないことだ。
「そうだ、俺は悪魔だ。助けてと怯えたを鞠乃を殺した悪魔と同じだ。――だから、死ぬ」
周りがざわついた。
ざわついた方を見れば、信乃が火がついたライターを手に歩いてきていた。
足元には可燃性の強い灯油のような液体が撒かれている。
もし、あれがこの液体に触れたら大惨事になる。
――そう思っていた瞬間、信乃の手からライターが離れ、床に落ちた。
辺りは一瞬にして炎に包まれ、捜査員達は外へ避難する。
「京!浅川!お前達も早く!」
捜査員の一人が一颯達に向かって叫ぶ。
木造の古民家のせいか、可燃性の強い液体のせいか火の回りが早い。
このままでは一颯達や仙石達の身も危険だった。
一颯は仙石を、汐里は信乃を外へ連れ出そうと試みた。
しかし、二人は屋内に踏みとどまる。