「……浅川、何故人は犯罪を犯すんだろうな」






ふと、窓の外を見たまま汐里が呟く。
いつも豪快なオッサンみたいな彼女が珍しく気が沈んでいるように見える。
一颯はハンドルを握りながら、横目で汐里を見る。
切れ長の目がただ流れる外の景色を見つめている。






「……ペルソナが言ってました。《人間は誰かを憎み、恨み、蔑む》、《人間は弱いから本能に負けて理性を崩壊させる》って」







「本能が理性を壊せば、犯罪者になる。理性を壊す本能は人間の負の感情が大きくなればなるほど強くなる。後戻り出来ないくらいまで負の感情が膨れ上がって、最後は崩壊する。崩壊したら、最後。犯罪者の仲間入りって訳か」






汐里は自虐的に笑う。
彼女は何かに気付いた。
一颯自身もそれだけはあってはならない、と否定したいことが推測の範囲で浮かんでいる。
今回の事件の犯人はほぼ決まってしまった。






「署に戻り次第、家宅捜索の令状を取る。これも鑑識に回す。あと、三日前に信乃さんが本当に病院に行っていたか調べる」






「はい。でも、病院が――」





「茶の間に薬の袋があった。にじいろ薬局、そこに近い精神科が入っている病院は皆実総合病院だけだ」






「わ、分かりました。向かいます」






恩師と他愛ない会話をしつつ、周りの状況を把握する。
汐里は広い視野を持っている。
そして、疑わしい者は信頼していた者でも疑う。
例え、それが恩師だったとしても。







「やっと出来た子供だって言ってた……。結婚は早かったのに、なかなか出来なかったって……」





「……はい」






「目一杯愛して、大切に育ってるって言ってた……何よりも宝物だって……」






汐里の声が震える。
一颯は願うしかなかった。
犯人が別にいることを、あの夫妻が犯人でないことを。
ちゃんと病院に来ていて、何処かに出掛けてから帰って来ただけだと信じたい。






皆実総合病院に到着し、精神科に問い合わせた結果、仙石信乃は三日前に通院していなかった。
予約日はまだ先で、予約の確認が取れた。
つまり、夫妻は近所の人に話したことは嘘ということになる。
それを聞いた汐里は血が滲むほど唇を噛み締めていた。