「貴方達、仙石さんのお知り合い?」
すると、ゴールデンレトリバーの散歩をしてた近所の人が車に乗ろうとする一颯達に声をかけた。
「はい、私の中学時代の恩師です」
一颯達が近付けば、ゴールデンレトリバーは『遊んで!』と言わんばかりに一颯の足にしがみつく。
大型犬だから力が強い、スルーしようかと思ったが、力負けしそうだ。
汐里が飼い主と話してる間、二人の会話を耳に入れつつ、一颯は仕方なくゴールデンレトリバーの相手をする。
「何日か前なんだけど、外に響くくらいの悲鳴が聞こえてね。何だと思って、旦那さんに声をかけたら奥さんがヒステリックを起こしたって」
「最近は安定しているとは言っていましたけど」
「私もそう思ってたわ。二人で出掛けたり、穏やかに過ごしてたみたいだから。でもね、私の聞き間違えじゃなければ、悲鳴は男の人の声だった気がしたの」
汐里の顔が険しくなり、ゴールデンレトリバーを撫でくりまわす一颯の手も止まり、彼女を見上げる。
そんな一颯の頬をゴールデンレトリバーはべろんべろんとなめ回していた。
「それ、何日か前って詳しく思い出せませんか?」
「えっと……あ!三日くらい前ね。確か、その日は奥さんの病院だって朝出掛けたと思ったらすぐに帰って来て。いつもは一日がかりなのに」
「……その話、詳しくお聞かせください」
汐里は警察手帳を取り出し、詳しく話を聞くことにした。
そして、その話を聞いた汐里は奥歯を噛み締めたまま話を聞かせてくれた近所の人に頭を下げ、車に乗り込む。
一颯も頭を下げ、その後に続いた。
「あ、手錠だ!」
署に戻る最中、一颯は思い出したように大声を上げる。
いつもなら「うるさい!」と怒鳴ってくる汐里は窓の外を見ていた。
あの独特な輪の形、変形はしていたもののそれは日頃携帯している手錠の鎖に酷似している。
だが、何故あんなところに?と今度は疑問が一颯の中に浮かぶ。