「……殺されたのか、あの悪魔は」
「そう……」
夫妻が発した言葉はそれだけだった。
娘を殺した犯人が殺されたのだ。
もう少し反応があるとではと一颯は思ったが、汐里はそれ以上は何も言わなかった。
「この事に関してはどうか内密に。ですが、被害者が過去の殺人に関わっていたということはいずれ明らかになります。そうなれば、仙石先生達のところにマスコミが来るでしょう」
仙石夫妻は娘を亡くしたばかりの頃、マスコミが家に押し掛けてきたことがきっかけで田舎に引っ越してきたのだ。
表面上は精神的に不安定になった信乃の療養の為になっているが、実際はマスコミから逃げる為だった。
漸く平穏になったというのに、またマスコミが家に来る。
それは再び仙石夫妻がマスコミの餌食になることを意味している。
「分かっている。犯人が裁かれても、殺されても俺達は被害者遺族というのには変わり無いからな」
仙石は覚悟したような顔で信乃の肩を抱く。
肩を抱かれる信乃はただ、じっと汐里を見ていた。
何か言いたげに。
だが、その言葉を聞けないまま一颯と汐里は仙石の家を出ようとした。
「そろそろ仕事に戻ります」
「見送りをしようかね。汐里は多忙だから次いつ会えるから分からないからな」
「平気ですよ。先生は信乃さんの傍にいてください。では」
汐里は仙石に頭を下げて、歩き出す。
一颯もその後を追いかけて行くと、玄関を出てすぐの辺りに燃えカスのようなものが落ちていた。
入るときは無かったことから、風か何かで運ばれてきたのだろう。
一颯はそれをハンカチで拾い上げる。
「どうした?」
「いや、何か燃えカスが……」
一颯はハンカチで拾い上げた燃えカスを汐里に渡す。
燃えカスは何が燃えたのか分からないほど焦げていたが、形だけは変形しているものの残っている。
楕円形のような形をした輪に、熱で千切れた輪が絡み付いていた。
一颯にはそれに見覚えがあったが、思い出せない。
「持って帰って、鑑識に回す」
汐里の声は何処か重苦しい。
それもそうだ、恩師の娘を殺した犯人が今度は殺されて被害者になった。
彼女も複雑な気持ちなのだろう。
一颯は先に車の方に向かっている汐里を急いで追いかける。
「……あの子は本当に刑事らしくなったな」
仙石が悲しげな顔で二人を見ているとは知らずに――。