遺体が見つかった川原から車を少し走らせ、途中菓子屋に寄って恩師の妻の好物だという饅頭が買って行く。
そこからまた少し車を走らせれば、古民家が見えてきた。
そこが汐里の恩師の自宅のようだ。





「ごめんくださーい。こんにちは、仙石先生いらっしゃいますかー?」






汐里は玄関の引き戸を開け、中に向かって叫ぶ。
古民家にはインターホンがない場合があり、こうして呼ぶことがある。
都会育ちのお坊ちゃんの一颯にはTVの中でしか見たことがない光景だった。
すると、家の奥の方からひょっこりと初老の男が顔を出す。





「お、汐里か。よく来たな」





「お久し振りです、仙石先生。急に来てすみません。近くに来たものですから」





「何かパトカーのサイレンの音が凄かったが……。そうか、事件があったのか。汐里が来たということは殺人……かい?」






「まあ……」






「そうか。とりあえず、中に入りなさい。おや、彼は?」







汐里の恩師、仙石は彼女の後ろに遠慮がちに立っている一颯の姿を見つけた。
気が強く、凛とした刑事らしい雰囲気の汐里に対し、彼は品の良さを感じさせるが、まだ刑事になりきれていないように見える。
仙石のような一般人から見ても、一颯は優しすぎるのだ。





「申し遅れました、浅川一颯と言います」





「私の新しい相棒。まだまだひよっこですけど、見込みがあるんですよ」





仙石に頭を下げた一颯だったが、汐里の言葉に驚いて頭を上げる。
だが、汐里はそれを気にすることなく、「お邪魔します」と中に入っていく。






「ハハハ、あの子は変わらないな。普段ツンツンしてるくせに、ふとした時に気を許す。気を許せば、ずっと慕い続ける。猫みたいな子だよな」





「確かに猫みたいですね」





一颯は普段の汐里の姿を思いだし、気まぐれで自由なところは猫のようだと思い返す。
仙石はクスリと笑って、一颯を中に入るように促す。
一颯も「お邪魔します」と声をかけて、先輩が揃えて脱いだはずのパンプスを揃えてから敷居に上がり、自分の革靴も揃えて茶の間の方へ案内される。