「う……」
一颯は目の前にある遺体の状態に目をそらしつつ、手を合わせる。
とある山間部の集落の傍にある川原で、焼けた車の中から焼死体が発見された。
身元が分かるものは身に付けておらず、性別も分からないほど焼かれていた。
殺人か、自殺か……ハッキリしない。
「浅川は焼死体を見るのは初めてか」
「写真では何度か……。ですが、生で見るのは初めてです」
「なら、そっち行ってろ。現場で倒れられたり、吐かれても困る」
汐里は顔を青ざめて今にも卒倒しそうな一颯に、虫を払うかのように「しっしっ」と手を払う。
一颯は大人しくそれに従い、少し離れた所から状況を見守る。
遺体を現場に来た検視官と検分する汐里は肝が据わっているのか、経験の差なのか平然としている。
早く慣れねばならないことだが、なかなか慣れるものでもない。
「背格好を見る限り、被害者は恐らく男性のようですね。それ以上はこれだけ焼かれてしまったら……」
「あとは司法解剖に回してからですかね」
汐里は鑑識に後は任せ、少し離れた所から状況を見守る一颯の方へ歩いてくる。
やはり、遺体を見た後でも彼女は平然としている。
が、顔は何処か浮かない。
「どうしました?」
「いや、焼死体と聞くと思い出す事件があってな……。浅川、四年前に起きた女児誘拐殺人事件を覚えているか?」
「はい。確か小学生の女の子が誘拐されて、焼死体で発見された事件ですよね?犯人が未成年で、その時期話題になっていた記憶があります」
「そう。被害者は仙石鞠乃ちゃん、当時七歳。犯人は未成年で、精神鑑定の結果、罪に問えないことが判明。不起訴にはならなかったが、遺族からしたら納得の行く刑罰ではなかった」
二人は車の方へ向かい、当然のように一颯は運転席に乗り込み、汐里は助手席に乗った。
「京さん、詳しいですね。その頃ってまだ交番勤務ですよね?」
「……ああ。その被害者の女の子、私の中学時代の恩師の子供なんだ」
「え……」
一颯はエンジンをかけようとした手を止め、汐里の方を見た。
身近な人が犯罪に巻き込まれ、被害者遺族になったり、加害者家族になってしまうことは非現実的に見えて、身近なことだったりする。
現に一颯は幼なじみ家族が被害者家族に、親友の家族が加害者家族になっている。