「や、止めて……」
恐怖で怯えていた。
大の大人がこれごときで怯えるな。
俺の娘はまだ子供だったのに、この恐怖に怯えたんだ。
――甘えるな。
「た、助けて……」
命乞いしてきた。
お前のような男が死を恐れるな。
俺の娘はまだ子供だったのに、死んだんだ。
――お前に殺されたんだ。
俺は、俺達はお前を許さない。
俺達の大切な、己の命よりも大切な宝物を奪った。
これからも愛して、大切に育てて……。
誰かに愛されて、幸せを感じる未来が娘にはあったのに……。
「未来ある子供だったからと数年収監され、今はのうのうと生きている。俺達の娘は死んだのに、何故は生きてる?」
「ぼ、僕だってのうのうと生きている訳じゃない!犯罪者だからって上手く行かないことだって――」
「それは自業自得だ。それがお前が仕出かしたことの罪だ」
「っクソ!子供を殺しただけで何でもこんな目に遭うんだよ!?」
こいつはダメだ、反省していない。
罪を償うために収監されても腐った中身は変わってない。
法は犯罪者を守っても、遺族を守ってはくれない。
警察は犯罪者を捕まえて罪を償わせることは出来ても、遺族の悲しみを癒してはくれない。
「こんなことをしては教え子に怒られてしまいそうだな」
手には刃物、脳裏には昔の教え子が浮かんでいた。
警察官の父を亡くし、自らも警察官を志した教え子。
今は捜査一課の刑事として優秀だというからもし、俺が捕まるときは教え子に捕まることになるだろう。
そうなれば、教え子はどう思うだろうか?
「だが、そんなことどうだっていい。俺はお前を――」
絶叫と共に鮮血が目の前に広がる。
これは復讐だ。
あの男に唆された訳ではない。
元々これは俺は、俺達はこの男が出てきたら実行しようと思っていたことだ。
「《憤怒》と《強欲》……。俺はお前の教えを鵜呑みにした訳じゃない。勘違いするなよ、ペルソナ……」
俺はただ許せなかった。
最愛の宝物がある日、呆気なくこんな男に奪われたのが。
だから、味合わせてやるんだ。
――娘と、鞠乃と同じ苦しみ。