「何を難しく考えているか分からんが、お前はお前の信じるものを貫けば良い」
こんな言葉をかけているが、汐里には一颯が何に悩んでいるのか分かっていない。
だが、一颯が凹んでいるように見えたから声をかけた。
あくまでも散歩ついで、だが。
一颯は頷くと、情けない顔を隠すように膝に顔を埋めるのだった。
その後、公安に捜査権が移った今回の暴行殺人未遂事件は九条のパワハラが原因で、犯人は羽田部咲莉だと公にされる。
が、《七つの大罪》について公にされることはなかった。
その代わり、九条と鷹匠の不倫が週刊誌に取り上げられ、双方とも辞職へと追い込まれることとなった。
そして、一颯の身の上に関しては――。
「えー、京知ってたのかよー。何で教えてくれなかったんだよ?」
「警察官たる者、他人の秘密をベラベラ話すか。そういう赤星も誰にも言ってないだろ。椎名さんも」
「まあ、警察官たる者、他人の秘密をベラベラ話すかよ」
ドヤ顔の赤星に、「お前が言うか」と汐里は呆れたような目を向ける。
ちなみに今この場にいるのは一颯と汐里、赤星と椎名で、場所は何故か捜査一課行きつけの居酒屋の個室だった。
「でもさ、よくよく見れば浅川の箸使いにしろ、姿勢の良さって育ちの良さを感じるよな」
「俺、こんなに綺麗に魚の骨取って食べる人初めて見たわ」
飲めない一颯は率先的に焼き魚などの食べにくいものを食べやすいように骨を取り除いていた。
それはまさに漫画に出てくるような骨しか残っていない焼き魚の食べた後のよう。
姿勢の良さは警察官だからかと思われたが、違うように思えたのは所作が品があるからだった。
「まあ、ヘタレのポンコツなのは育ちが良いからなのか」
「てかさ、浅川って呼んでて良い感じ?それとも、東雲の方がいい?」
「あ、浅川――いや……呼びやすい方で構いませんよ」
「じゃあ、浅川で!今さら東雲っても呼びにくいし、俺らは東雲一颯じゃなくて、浅川一颯と仕事してるんだしな!」
赤星は隣にいる一颯に肩を回して笑っている。
向かいにいる汐里や椎名も彼の意見に賛同しているのか、何も言わずに酒を飲んでいる。
そんな三人の変わらない態度が一颯には本当に嬉しかった。
一颯は頬を弛めながら、ジンジャエールを飲む。
それが赤星の手で、ハイボールに入れ換えられているとは知らずに。
その後は言わずもがな。
一颯は撃沈し、赤星におぶられて官舎に帰るのだった――。