「お前はペルソナ……?」
「よく分かったな。以前に会った姿とは違うというのに」
理由は分からない。
姿も声も違うのに、このフードを被った女がペルソナなのだと本能が感じ取った。
そして、直感的に感じた。
これはペルソナの本当の姿ではないのだと。
「前に会ったお前と今のお前。どちらが本当のお前だ?」
「どちらも本当の姿ではない。我はペルソナ、人の人格の数だけ存在する」
女の姿をしたペルソナの声は以前に会ったペストマスクをした男と同じく、機械のようだった。
抑揚がなく、感情が感じ取られない。
まるで、人形のようだった。
「お前は何故犯罪を促す?自らの手を汚さず、犯罪を犯したいだけなのか」
「そんなことはない。犯罪を犯すつもりはない。ただ、アドバイスをしているだけ。それが犯罪へ繋がるかは本人の気持ち次第だ」
ペルソナは目深に被ったフードの下で笑う。
違う、ペルソナは煽っているのだ。
誰かを憎み、妬み、恨んでいる人間を煽り、犯罪へ誘う。
犯罪を犯す者は全てが限界の極限状態。
それを誰かに煽られ、犯罪を促されてば――。
「犯罪を犯すか、最後に決めるのは己自身。皆本能に負けたんだ。憎しみや妬み、恨みが理性を崩壊させる。人間は弱いから本能に負ける。――君もね、浅川――いや、東雲一颯君」
ペルソナはゆっくり一颯に近づいてくると、彼の頬に触れる。
頬に触れている手は酷く冷たい。
まるで、死人のようだ。
一颯はその手を振り払おうとしたが、身体が強張り動けない。
「君も誰かを憎んでいるだろう?妬んでいるだろう?恨んでいるだろう?」
「だ、黙れ……」
「人間は誰かを憎み、妬み、恨んで蔑む。己が一番大事で、他人は二の次。どんなに正義を唱えていても正義が本当に正義とは限らない」
「黙れ!」
漸く身体を動かした一颯はペルソナの手を払い退けた。
その拍子にペルソナの首がガタリと外れ、何本もの電線が露になる。
ペルソナは人形だった――。
そんなことが頭に過る。
「おや、首が取れてしまった。乱暴者だな、君は」
「……お前、人形なのか……?」
「さて、どうだろうね?知りたいなら、探ると良い。――本当の僕に辿り着くために」
そう言い残し、ペルソナは壊れた人形のように倒れた。
もう人形からペルソナの気配はない。
一颯は倒れた人間に触れる。
これはペルソナではない。
ペルソナは恐らく人間、人の皮を被った悪魔。