「それで、何でそんなにスイーツを鬼のように買ってるんです?」
「……追っていた事件が公安に捜査権が移った。ムカつくからやけ食いする」
「公安に……?」
唇を尖らせる椎名の言葉に。汐里は眉をひそめる。
「詳しくは明日出勤したら教えてやる。ほら、早く行かないと弟たちが待ってるぞ」
赤星が指差す先にはアイスを選び終え、「早くー!」と汐里を呼ぶ弟たちがいた。
いつの間にか、侑吾も自分の分も選び終えていて、汐里だけが選んでいないようだった。
汐里は一颯たちに「また」と手を上げ、ショーケースから某メーカーのお高いバニラアイスを取り、レジへ向かう。
「さて、俺たちも会計するか。あ、レジ袋有料だったの忘れてた」
「俺、エコバッグありますよ」
「浅川、金持ちのボンボンなのに庶民的……」
レジに向かってレジ袋有料の文字に呻いた椎名に、一颯はポケットから小さく折り畳めるタイプのエコバッグを差し出す。
それを見て、赤星は笑いを堪えている。
もう一つの方のレジでは京兄弟の長男と長女がどちらが会計するかいがみ合っており、最終的に母の一喝で割り勘になっていた。
「京警視と京さんって兄妹だなーって思うくらい似てますよね」
署に戻る車内で、運転する一颯がそう呟けば椎名は頷き、赤星は乾いた笑いを洩らす。
「それ、京の前で言うなよ。言ったら、背負い投げ食らうからな」
「え」
「京は京警視に劣等感を抱いてるからな。片や警察庁のキャリア、片やノンキャリアの捜一」
「俺には警察庁のキャリアよりも捜一の方が憧れますけどね」
「まあ、俺もそう思うけど」
一颯はさらりと遠回しにキャリアを否定したが、本人は自覚なしだ。
それが赤星には意外だった。
一颯は将来政治家になることを約束されていた人間。
勝手な赤星の偏見だが、そういう人物は人の上に立つことを、人よりも優れていことに優越感を覚えているようなイメージだった。
だが、一颯は違った。
政治家になることを約束されていたのにそれを蹴り飛ばし、名を偽ってまで一介の警察官になった。
東雲の名があれば、警察庁も夢では無かったというのに。
そこに関しては彼の父親の方針もあるが、もしかしたらこの親子は《東雲》という名にすがるようなことはしないのかもしれない。