「では、俺はこの辺で」





「はい。……また会いましょうね。今度は刑事さんの顔で」





羽田部の最後の呟きは一颯には聞こえていなかった。
一颯は椎名達と病院を出て、車の所へ向かっていた。
すると、嫌な奴らと遭遇する。





「九条の聴取ですか?我々も今から行くところです」





「……公安が何故九条に?」





椎名は目の前の公安の刑事、氷室とその先輩を睨む。
今回の事件は公安が絡むような事件とは思えない。
九条から聞いた聴取によれば、犯人は見ておらず、突然殴られたとのことだった。
つまり、見知らぬ者による通り魔事件または怨恨による殺人未遂事件と思われる。





「九条を始め、容疑者とされている鷹匠と羽田部は《七つの大罪》の信奉者とされている」





「《七つの大罪》の信奉者?」





「言えるのは此処まで。では」






氷室は一颯を一瞥し、先輩刑事と共に病院へと入って行った。






「相変わらずムカつく奴。てか、先輩差し置いて話すなよ」






「……赤星、お前がそれを言うか。まあ、氷室もムカつくけど、『うちの後輩優秀だろ?』って目で言ってる重原もムカつく」





「椎名さんって重原刑事と同期なんでしたっけ?」






「同期。ちなみにアイツも元ヤンだ」






「うわ、いらない情報」






椎名と赤星は心底嫌そうな顔で病院の入り口の方を見ていた。
そんな中で一颯は一人考え事をしていた。
先ほど氷室が言っていた被害者と容疑者二人が《七つの大罪》の信奉者という情報。







「《七つの大罪》……怒ってる……狼……」





一颯はスマートフォンを取り出すと、ネットで検索をした。
すると、そこには《七つの大罪》の罪を象徴する動物が書かれていた。
狼は憤怒を象徴している。
ふと、羽田部の言葉を思い出す。
彼女は今怒っている、喉笛に噛み付いて殺したいくらいに。





もしかしたら――。
一颯の中で今回の犯人が誰なのか、予想がついた。
しかし、それはあくまでも予想。
予想の範囲では逮捕できない。
逮捕するには決定的な証拠が必要だった。