「椅子をどうぞ。ずっと立っているのも大変でしょう?貴方も刑事さんなんですよね?」






「すみません。そうですが……」





「こんなことを聞くなんて失礼ですよね。すみません。あちらの二人に比べたら、貴方には親しみを感じられたので」





「実は捜査一課に異動してきたばかりなんですよ。三月まで交番勤務をしてました」







一颯が捜査一課に異動して来てから約一ヶ月。
まだ強者揃いの捜査一課の刑事に見られるには日が浅いようだ。
汐里や椎名は見た目からして優秀な刑事!という雰囲気なのだが、普段はチャラけている赤星も事件になると、捜査一課に所属する刑事の顔になる。
一颯もそうなりたいとは思っていても、どうも垢抜けないらしい。






「そうなんですね。どうりで初々しい感じがしました」





羽田部は人懐っこい笑みを浮かべた。
彼女は見たところ二十代後半くらいの年齢で、結婚しているようで左手の薬指に指輪をしていた。
対して、九条は三十代独身で四十代の鷹匠の愛人。
自分より若くて結婚している秘書に嫉妬をして、パワハラと不倫を行う国会議員。
週刊誌が喜びそうなネタだ。






「あの、お聞きしたいことがあるんですが」






「何でしょう?」





「その襟のブローチ、何がモチーフなんですか?」







羽田部の襟には清楚なイメージの彼女のは不釣り合いなブローチが着いていた。
モチーフはパッと見犬の横顔のようにも見えるが、少し違う気がした。
耳の形や牙、鼻の形が犬に比べて尖っているように思える。





「これは狼です。人からの貰い物で、怒りの象徴なんです。私は今怒っている、喉笛に噛み付いて殺したいくらいに」





「え……」





「なーんて、捜査一課の刑事さんに言ったら逮捕されてしまいますよね。でも、怒りの象徴というのは当たってるんです」






羽田部は狼をモチーフにしたブローチにそっと触れる。
一颯は何か引っ掛かっていた。
だが、それが何なのか分からない。
一颯も彼女とそんな話をしているうちに椎名達は聴取を終え、「戻るぞ」と赤星が一颯に声をかける