「椎名さんの元ヤン話は聞いてて面白いですよねー。めっちゃ補導されてるし。それでよく捜査一課に来れましたね」
それなのに、赤星が聞いてもいないこと話し出す。
一颯は驚きでブレーキを踏んでしまう。
後ろに車が居なかったから良かったものの、急にブレーキを踏むのは緊急時以外控えるべきだ。
いくら驚いたとしても、だ。
「危ないぞ、浅川。赤星、お前が余計なことを言うからだぞ」
「すみません……。いや、だって……」
「俺の話は良い。浅川、続き話して」
椎名は後部座席に乗った赤星を横目で睨む。
「ぴゃっ!」と赤星の怯える声がしたが、運転中の一颯には椎名の睨みは見えなかった。
見ない方が身のためだが。
「それで母が父を説得してくれて。子供のやりたいことは一度やらせてろ!って言って」
「「あー言いそう……」」
「でしょう?それで、父も条件付きで警察官になることを許してくれました。その条件が《東雲の名を借りずに高卒で十年以内に捜査一課の刑事になること》だったんです」
東雲の名は有名すぎる。
一颯の父を始め、祖父や曾祖父それ以前の先祖達も代々政治家だ。
一颯自身も幼い頃に誘拐され、汐里の父親に助けて貰って刑事に憧れることがなければ、政治家を目指していただろう。
実際、幼いながらも自分は政治家になる。そう思っていた。
「じゃあさ、誘拐されてなかったら浅川は政治家になってたんだな。それって、親が引いたレールの上をただ進んでるみたいで面白くねぇし、良かったな!」
「赤星、警察が誘拐を良いことのように言うな。犯罪だからな」
「分かってますよー。椎名さんって元ヤンなのに、言うことは真面目ですよねー。驚きですわ」
「……お前みたいなチャラけた奴が警察官やってる方が驚きだ」
この二人のやり取りは面白い。
論点がずれてきているが、本人達が気付いていないことに面白さを感じる。
それに、一颯には《東雲久寿》の息子として扱うことなく、今まで通り接してくれる二人の気遣いが嬉しかった。