「ウジウジって言うな!俺だって色々と考えてるんだよ!」
「それがウジウジしてるって言うのよ!ああ、面倒!あなた!こっちに来て!ああ、あなたもウジウジしない!」
言い争い事をしている親子の元に、一家の大黒柱である久寿が現れる。
その姿はやはり、法務大臣らしく威厳が感じられる。
一颯は久々会う父に気まずさを覚える。
すると、久寿は一颯の頬に触れた。
「少し……痩せたか?捜査一課はやはり忙しいのか?」
「少しだけ痩せた……。忙しいけど、ずっとやりたかった仕事だから平気」
「そうか。たまには顔を出しなさい。私に会いたくないならいないときに来れば良い」
「……うん、来るよ。父さんがいるときに」
一颯は久寿に頭を下げて、椎名達と共に車の方へ向かう。
久々の親子の会話は短かった。
だが、一颯にとっては暖かい気持ちにさせられる時間だった。
父は多分、自分を認めてくれた。
いや、もしかしたらずっと認めてくれていたのかもしれない。
それを一颯が気づいていなかっただけだったのかもしれない。
「で、何で浅川って名乗ってんだよ?」
署に戻る車中で、赤星が一颯に問う。
忘れていたのかと思いきやしっかり覚えていたらしい。
寧ろ、忘れる方が無理だと思う。
一颯の隠し事はあまりにも強烈すぎた。
「警察官になるとき、父に反対されたんです。父は自分の跡を継いで政治家になってほしかったみたいで」
「あー政治家の息子は政治家、それが世の常だもんな」
「でも、俺は警察官になりたかった。だから、初めて父に反発して大喧嘩をしました」
「え、俺、父ちゃんにめっちゃ反発しまくって家から閉め出されたけど」
「俺は物置に入れられた。でも、扉壊して出てやったけど」
赤星のエピソードは納得が行くが、椎名のエピソードは意外すぎて一颯は助手席の彼を見た。
よく見れば、椎名の耳にはピアスの穴の跡が残っている。
もしかして、この人は元ヤン?
聞きたい気がするが、聞きたくない気の方が大きいので一颯は聞かずにいた。