「あ、浅川!此処って東雲大臣の自宅じゃないか!」





「そうですよ」





あっさり答える一颯に、椎名と赤星は混乱する。
すると、木製の引き戸が静かな音を立てて開き、そこから一人の少女が出てきて頭を下げた。
歳は高校生くらいで、一つ一つの仕草が育ちの良さを感じさせられる。





未希(みき)、あの人は?」





「中にいるよ」




一颯は未希と呼ばれた少女の返事を聞き、引き戸の出入り口から中へ入っていく。
「刑事さん達もどうぞ、中へ」と少女に促され、椎名達は一颯の後を追う。
一歩踏み入れた東雲邸の庭は見事な日本庭園で、まさに高級旅館。
椎名と赤星は住む世界が違いすぎて気後れしてしまう。






「お、おい!浅川、お前普通に入っていくなよ!?てか、その子は!?」





赤星はスタスタ進んでいく一颯に追いつき、こそりと耳打ちする。
耳打ちと言っても動揺しすぎて耳打ちというには声が大きい。
一颯は困ったように頬をかくと、未希の方を見た。
よく見れば、この二人はよく似ている。
まるで、兄妹のようだ。





「申し遅れました、東雲未希と申します。いつも兄がお世話になっております」






「俺の妹で、此処は俺の実家です……」






「妹?」






「実家?」






赤星と椎名は見事に混乱していた。
少女――未希は東雲久寿の娘で、一颯の妹。
この豪邸は一颯の実家。
一颯の実家は東雲久寿の自宅。
つまりは――。






「おま、お前!東雲大臣の息子だったのか!?」





「この事を知ってるのは一部の警察官だけなので、どうか内密にお願いします」






「だって、名字!」





「浅川は母方の名字なんですよ。詳しくは事情聴取が済んだら話すので、先に事情聴取をしてください」






こんな状況で事情聴取が出来るか!
と赤星と椎名は思ったが、そこは仕事なのでちゃんと行った。
事情聴取の間、一颯は未希と共に外で待っていた。
自宅なのだから中にいれば良いものの。