「現法務大臣の東雲久寿氏の聴取が取れてない」
「大臣となれば、なかなか難しいですよねぇ」
甘いものを食べて復活した赤星はデスクに頬杖をつく。
今の法務大臣、東雲久寿はまだ五十歳手前だというのに頭が切れる人物で有名だ。
聴取の時間を取って貰うにも、色々と気を使うのは警察の方。
「事情聴取……したいんですね?」
「したいけど、まず秘書に日程を開けて貰わないとな」
椎名はクッキーにかじりつくと、コーヒーを飲む。
そして、スマートフォンを手に東雲の秘書の名刺を見た。
日程を開けて貰うため、電話をかけるのだろう。
「じゃあ、俺と一緒に来てもらえます?」
「「は?」」
「俺がどうにかします」
一颯はスマートフォンを取ると、何処かへメッセージを送る。
返信はすぐに来て、家にまだ在宅中だという。
「アポは取れました。行きましょう」
「ちょっ!待て!状況を把握できないんだが!?」
普段冷静な椎名が慌てながら、先に歩き出している一颯の後を追う。
その後を赤星も追いかけていている。
一颯は説明するのが面倒で仕方がない。
この事件がなければ、きっと自分から話すことは無かっただろうから。
「今説明しても信じてもらえないと思うので、とりあえず付いてきてください」
もうやけくそだった。
相手は先輩だが、態度が雑になる。
一颯自身今から行くところは憂鬱で仕方がない。
何せ、しばらく帰っていない。
帰れば、あの人がいる。
そう思うと、自然と足が遠くなっていた。
一颯は駐車場に着くと車の運転席に乗り込み、椎名が助手席に、赤星が後部座席に乗り込む。
車を署から三十分程走らせれば、閑静な住宅街に入る。
そこは高級住宅街として知られ、周りの住宅は豪邸ばかりだった。
一颯はとある豪邸の前に車を駐車する。
周りの住宅は洋風な造りが多いが、その豪邸は純和風で高級旅館を連想させる造りをしていた。
門柱の所には《東雲》の表札があり、そこが東雲久寿の自宅であることが分かった。