ピリリリリ――。
枕元でスマートフォンのアラームが鳴る。
いつもならば、煩わしいと思いながら止めるアラームも今日は違った。
「よし!」
アラームが鳴る前から起き、布団の中で無機質な白い天井から視線をスマートフォンに移す。
ディスプレイに触れてアラームを止め、日付を確認する。
日付は新年度を指している。
今日という日をどれだけ心待ちにしていたか分からない。
「いよいよ、今日からだ」
ベッドから降り、壁の木製のフックに掛けられたダークカラーのスーツに目を向ける。
それは新調したばかりの物で、糊が付いているのかパリッとしていた。
その下には同じく新調しつつも履き慣れた革靴がある。
それらは今日の為に買ったもの。
「今日から俺は刑事だ」
今日から憧れの刑事になる。
ずっと憧れて、望み続けて漸く捜査一課に配属が決まった。
これまでの警察としての仕事が嫌だったわけでも、やる気が無かったわけでも、やりがいがなかったわけでもない。
それでも、憧れていた部署への配属となれば心構えが変わる。
刑事になりたい……、刑事になると決めてから早十二年。
浅川一颯。
まだ子供だった少年は大人になった。
芯の強い、立派な警察官になっていた――。