「あれ?京さんは?」
隣の席にいつも栄養ドリンク片手に座っている汐里の姿がない。
出勤してきた一颯は徹夜で捜査していた椎名の方を見た。
ちなみに椎名の隣の席で同じく徹夜で捜査していた赤星が眠気に負けて、デスクに突っ伏している。
「京は休み。この前、小学校の運動会だったみたいなんだけど、雨だったから今日に順延されたらしいから休み。でも、仕事が入ったら来るってよ」
「ああ、なるほど。司馬課長もそれで休みなんですか」
課長である司馬も小学生の子供がいるらしく、今日は休みとのことだった。
司馬の子供は男女の双子で、一颯は司馬のデスクに置かれた写真でしか見たことがないが、可愛らしかった。
一緒に映っていた妻も綺麗な人だった覚えがある。
「そうそう。課長も何かあればすぐに駆け付けるってさ」
「大変ですね、家族がいるのも。あ、これ、差し入れです」
一颯は持っていた紙袋を椎名に差し出す。
「これは?」
「昨日非番だったので、妹と会ったんです。そしたら、一人では食べ切れないくらい作ってきて……」
紙袋の中にはたくさんの種類のお菓子が入っていた。
クッキーにチョコチップスコーン、アップルパイにパウンドケーキ。
甘いものが好きな兄のために、全部一颯の妹が手作りしたものだ。
気持ちは嬉しいし美味しいのだが、さすがに多すぎる。
「おー美味しそうだな。赤星、起きろ。脳と身体に糖分を届けろ」
「あ、これ、来る途中のコンビニで買ってきたコーヒーです。どうぞ」
赤星はガバッとデスクから起き上がる。
ずっと同じ体勢でデスクに突っ伏していたせいか、額が赤くなっていた。
そして、椎名に差し出されたパウンドケーキをもすもすと食べ始める。
その姿はまさに小動物だった。
「それで、進捗はどうなんですか?国会議員、九条繭江の暴行傷害事件」
今、椎名と赤星達が捜査するのは国会議員が何者かに襲われ、重傷を負った事件だ。
目撃者はなく、被害者は意識不明のため確認しようがない。
防犯カメラはあったものの、犯行現場は死角になっていて犯行も犯人も映っていなかった。
「容疑者は何人か上がってるから事情聴取は取れてる。ただ、一人だけまだ取れずにいる」
椎名はまとめた資料を一颯に手渡す。
容疑者は三人。
九条の秘書の羽田部咲莉。
同じく国会議員の鷹匠光太郎。
あと一人は――。