「理由?」





「……見つけた」





汐里はチェストの上にある貯金箱の裏に貼り付けられた何かを見つけた。
その貯金箱は一颯が啓人に学生の頃に誕生日プレゼントであげたものだ。
お札ばかり使っていて、財布の中を小銭だらけにしていた啓人の財布が少しでも軽くなればとあげたのだ。





貯金箱の裏から見つかったそれはmicroSDカード。
汐里はそれを啓人の部屋にあったPCに入れ、再生する。
映像はなく、音源だけ。
だが、それは紗佳の印象を変えてしまうものだった。





『おい、小田切。一颯の気を引くためだからってストーカー被害に遭ってるなんて嘘つくなよ。アイツ、捜査一課に異動になって忙しいんだぞ』





『なーんだ、啓人君にはバレてたんだ。だって、一颯君が捜査一課に異動にしてから会えなくなって寂しかったんだもの』





『だからって、嘘は止めろよ。アイツがどれだけアンタを心配してると思ってるんだよ』





『知ってるよ。だから、今度はストーカーに襲われたって言って怪我しようかなー』




『小田切!』





『さっきからうるさいよ、啓人君。一颯君の親友だか知らないけど、巻き込まれたくないなら黙ってて。言っておくけど、私、啓人君のこと嫌いだから。いっつも一颯君の傍にいてさ』






バタンというドアが閉まる音が聞こえる。
啓人が紗佳を家に送り届けた時のやり取りだろうか。
汐里は何も言わない一颯をチラリと見る。
聞こえるやり取りがショックなのか、PCを見ている彼は微動だにしない。





『あの女、ふざけるなよ……。このままだと一颯の人生がアイツに狂わされる……。そんな事許さない……』






『おい、一颯。お前が刑事ならこれ見つけただろ?驚いただろ、このやり取り』





ふと、啓人が一颯へ語りかけた。
恐らく警察は、一颯はこれを見つけるだろうと踏んで、語りかけているのだろう。
実際見つけたのは汐里だが。
微動だにしなかった一颯が啓人の声にピクリと反応する。






『俺は小田切紗佳を殺す。あの女が生きていたら、お前の人生が狂わされる。やっと夢だった捜査一課の刑事になれたのに、それを犠牲にしないといけなくなるかもしれない。そんなの俺が許さない。お前の夢は俺が守るんだ』






「啓人……」






『俺が小田切紗佳を殺せば、お前は俺を逮捕しないといけなくなる。でも、お前は優しい奴だからきっとその事で自分を責めて、悲しませるだろうな。だから、俺は逮捕される前に死ぬ。ごめんな、一颯』







そこでぶつりと音声の再生は終わってしまった。
汐里はPCからmicroSDカードを取り出して、一颯に渡す。