「奴は何処から……」





疑問を覚えながら車から鞄を取り、アパートの中に戻った汐里はリビングに一颯の姿がないことに気づく。
何処に行ったのかと部屋の中を歩き回ると、啓人の寝室らしき部屋にいる一颯を見つけた。





「啓人は余程俺のことが嫌いだったみたいです……」






室内の壁には一颯が一人で映る、友人達と映っている写真が何枚も貼られていて、それらはカッターやハサミで切りつけられている。
何度も切りつけたのか、壁紙まで切れている所もある。
ふと、汐里はあることに気付く。





「浅川、これを見ろ」





「え?」





汐里が指差すのは壁に付けられたウォールシェルフで、そこには一つの写真立てがあった。
中に収められていたのは一颯と啓人が二人で映っていた写真だった。
どれもズタズタに切り裂かれているというのに、この写真だけは綺麗なまま収められていた。





「何で……」





「……お前の友人はお前を守りたかったのかもな」





汐里は拳銃を仕舞うと、代わりにバサリと資料を鞄から出した。
それを一颯に差し出し、見るように促す。
渡された資料を見て、一颯は驚きで目を見開く。






「生活安全課によれば、小田切紗佳はストーカーになんかに遭っていない。お前の気を引くための自作自演だ」





その資料には紗佳がストーカー被害を警察に相談したときのことが書かれていた。
ストーカー被害の相談に来た紗佳の言葉にはいくつか疑問点があり、生活安全課が近辺調査を行った。
結果、ストーカー被害に遭っているという事実は確認されなかった。





「パトカーに待機している警察官が脅したのが誰なのか放火犯に聞いたら、女だと言ってたようだ。私も生活安全課の資料が正しいのか現実が正しいのか分からなかった。だから、現実を優先させた」





「じゃあ、啓人は何で紗佳を殺したんですか?殺す理由は無かったはずです」





「さっき、ペルソナは『彼らは』と言っていた。古賀啓人だけを指すなら『彼』で良い。つまり、古賀啓人だけでなく、小田切紗佳もペルソナに唆されていた。そう考えれば、理由が出来る」






汐里は手袋を嵌めると、啓人の寝室を捜索し始める。
仕事で使うデスクの引き出し、チェストの中、本棚の本の間。
何か隠されているかもしれない場所を探し回る。