「彼らはお前に《嫉妬》していた。そして、《怠惰》……生きることを諦めた」
ペストマスクの男が一颯の方を見た。
《嫉妬》と《怠惰》……。
何処かで聞き覚えがあった。
「《ペルソナ》……?」
「ご名答」
「ッ何故!何故啓人を唆した!?何故紗佳が死なないといけなかった!?」
「理由は明解。どちらもお前の大切なもの」
男――ペルソナは抑揚のない単調的な声で、一颯の問いに答えている。
一颯にとって啓人は大切な友人で、紗佳は大切な幼なじみだった。
それが啓人が罪を犯したことと、紗佳が死んだことも何が関係あるのだというのだろうか?
「それを奪えば、お前は一生苦しむ。そう彼らに言った。――彼らは自らの命よりもお前の不幸を選んだんだ」
一颯は腕の中の紗佳の亡骸を見る。
紗佳は俺なんかを好きにならなければ殺されなかった?
一颯は床で絶命する啓人を見る。
啓人は俺と友達のならなければ死ななかった?
全て悪いのは俺、なのか?
「黙って聞いてれば、胸糞悪いことを正しい言葉かのように……。ペルソナ、お前は何がしたい!」
汐里が怒りを露すれば、ペルソナはペストマスクの中で篭った笑い声を漏らす。
その笑い声はやはり、抑揚のない単調的な笑いだった。
「何がしたいかなど知らない。ただ、皆本来持つ人格を私は引き出しているだけ。人を殺したい、陥れたいという負の人格を」
ペルソナはそう言い残し、音もなく消えた。
何の前触れもなかった。
瞬きを一つする間にペルソナは消えていた。
汐里は玄関から飛び出し、アパートの周辺を見渡す。
が、ペルソナの気配はなかった。
パトカーの中にずっといた交番の警察官に「部屋に誰か入り、出てきたか」と聞けば、汐里達が入ってから汐里が出てくるまで誰も出てきていないとのことだった。