「い、ぶ……き……くん……?」
すると、紗佳がうっすらと目を開ける。
「紗佳!助けに来たぞ!今、救急車呼んでるからな、しっかりしろ」
汐里が救急車を呼んでいるのを確認して、一颯は紗佳の首の出血を止めようと手で押さえる。
が、血は止まるどころか溢れるばかりだ。
押さえる指の間を伝い、床に血溜まりが出来る。
首もとが冷たくなってきている気がした。
「私……ね……」
「話さなくて良い!元気になってからたくさん話せば良い!」
「ずっ……と……言いた…かっ、た……ことが……あるの……」
「紗佳!後で聞くから!今は――」
紗佳は話すことを止めなかった。
まるで、死を覚悟しているようだった。
死を覚悟して、最期に一颯に何か伝えようとしている。
だが、一颯はそれを聞きたくなかった。
聞いてしまえば、紗佳が死んでしまう気がした。
「私……ずっと、昔から……一颯君……が……好き、だよ……」
紗佳の目から涙が零れ落ちる。
そして、その目は静かに閉じられ、二度と開くことは無かった。
首もとに触れている手に微かに感じていた脈を消えた。
体温も感じなくなり、冷たくなっていく。
「紗佳……?おい、紗佳!紗佳……ッ」
一颯は紗佳の冷たくなっていく身体を抱き締める。
守れなかった。
自分を信頼できる警察官と言ってくれた幼なじみを。
助けを求めてきた大切な幼なじみを。
好きだと言ってくれたただ一人の幼なじみを。
一颯は守れなかった――。
「ごめん……紗佳……守れなくてごめん……」
「あ、死んじゃったんだ」
ふと、背後から啓人の呑気な声がした。
振り返れば、紗佳の血と思われる赤で濡れたカッターを持つ啓人がいた。
汐里は反射的に一颯達の前に立ち、拳銃を啓人に向ける。
「一颯、お前は本当に狡い奴だな」
啓人は一歩前に踏み出す。