啓人のアパートに到着すれば、要請を受けて近くの交番の警察官二人が既に到着していた。
警察官一人に放火犯を預け、一颯と汐里ともう一人の警察官は啓人の部屋へと急ぐ。
啓人の部屋は一階の真ん中の部屋。
一颯と汐里が玄関から、交番の警察官がベランダの方へ回る。
これで啓人の逃げ道は塞がれた。
「落ち着いてるか?」
「さっきよりは」
「なら、良い」
汐里は胸元の拳銃を取り出す。
それに一颯は息を飲むが、続くようにして拳銃を取り出した。
これを使うのは余程のことがあったときだ。
そうと分かっていても、一颯が拳銃を握ったのは訓練以外無かった。
初めて現場で握った拳銃が友人が犯人の事件だとは思っても見なかった。
「これはあくまで威嚇だ。間違っても発砲するなよ。発砲する時は――」
「分かってます。紗佳の身に危険が迫ったときですよね」
汐里は頷くと身を低くして、啓人の部屋の前に移動する。
一颯もドアの脇にあるスペースに身を滑り込ませた。
中から物音はしない。
だが、人の気配はする。
汐里が身を屈めたままドアノブに手をかける。
鍵は開いていて、まるで一颯達が来ることが分かっていたようにも思えた。
部屋の中は謂わば敵のアジト。
何か罠があるかもしれない、そう思いながら二人は室内へ入り込む。
――ピチョン、ピチョン。
水が滴る音が何処からかする。
室内が静かなせいかその音がやけに大きく聞こえ、不気味だった。
一颯と汐里は警戒しながら廊下を進み、リビングに繋がるドアを開ける。
そして、絶句する。
「す、紗佳ッ!?」
リビングに置かれたバタフライマシンの所に両腕を後ろで拘束された血まみれの紗佳がいた。
一颯は彼女に駆け寄り、ロープをほどいて紗佳の肩を揺らす。
「紗佳!紗佳!」
名前を呼んでも返事はない。
一颯は血に濡れる首もとに触れ、脈を確認する。
脈は微かにあり、今にも消え入りそうなほど弱々しかった。
頸動脈を切られた紗佳の指先から腕を伝い、血が滴る。
先ほどの水が滴る音はこれだったようだ。