「警察だ!」
扉が開く音と共に怒鳴り声とも取れる大声に驚いたのか、男達の動きが止まる。
一つしかないドアから大勢の警察が雪崩れ込み、男達を取り押さえていく。
少年は父と変わらないくらいの刑事に抱き起こされ、手と口のガムテープを剥がされて漸く自由になる。
「遅くなって済まないね。一颯君だね?よく頑張った、もう大丈夫だ」
その刑事は少年――一颯の頭を優しい手で撫でる。
その手は父の手に似ている気がした。
しかし、一颯にはその手が煩わしく思えた。
だからか、自然とその手を払っていた。
「父さんは、両親は身代金を出さなかったんですか?僕よりも金が大事だったんですか?」
「それは違う。君のご両親は――」
「一颯!」
刑事が何か言いかけた時、遮るように一颯を呼ぶ声がした。
制止する警察官の間を抜け、駆け寄ってきたのは一颯の両親だった。
母は無事な一颯の姿を見つけるなり、涙を目に一杯溜めながらその腕で抱き締めた。
父も安堵で眉を下げていた。
「一颯君。同じ親から言わせると子供より大事なものはこの世にない。金なんてね、幾らでもくれてやるから子供を返せって思う」
「でも、それじゃあ、犯人は……」
「それを捕まえるのが俺達警察の仕事。誰も怯えず暮らせるように守ってるのも警察。まあ、守れてるかは断言できないけど」
そう言って、その刑事は他の警察官に呼ばれてその方へ行ってしまった。
刑事は「キョウさん」と呼ばれていた。
それは本名なのか、あだ名なのかは分からない。
ただ、一颯にとってその名前は一生忘れることない名前だった。
そして、刑事になりたいと願うきっかけになる人の名前だった――。