「何で……お前が……」
一颯は訳が分からず、声が震えた。
隣で音漏れを拾った汐里も彼の口から漏れた名前に息を飲む。
信頼できると言っていた友人が幼なじみのストーカーだった。
その事実は一颯を動揺されるには十分だった。
『さて、何故でしょうか?』
「啓人!」
『気になるなら俺を見つけてみれば?』
スーツのポケットのスマートフォンが鳴った。
紗佳からのメッセージで開けば、動画が送られてきていた。
再生すれば、拘束された紗佳がこちらを見ていた。
目に涙を溜め、必死に一颯へ助けを求めているように見えた。
「紗佳!?」
『じゃあ、見つけてね』
啓人は通話を切ってしまう。
一颯はスマートフォンを放火犯に返すと、車に乗り込む。
汐里は放火犯を後部座席に押し込み、助手席に乗った。
「おい!彼女の居場所に心当たりがあるのか!?」
「はい。あのバタフライマシンには見覚えがあります。二人がいるのは啓人のアパートです」
昨日訪れた啓人のアパート。
あれは間違いなく啓人のアパートにあったバタフライマシンだ。
それに加え、動画に映っていたカーテンの色は啓人のアパートのリビングに付けられたもの。
「此処からどれくらいの距離だ?」
「車で十分くらいかと!」
車で十分は然程遠い距離ではない。
だが、焦る一颯には酷く長い距離に感じられた。
ハンドルを握る手が震える。
啓人が紗佳のストーカーだとは思わなかった。
そんな素振りを啓人は見せていなかった。
「落ち着け、浅川。今は少しでも冷静になることと紗佳ちゃんを助けることだけを考えていろ」
汐里はそう言うと、自分のスマートフォンを取り出して電話をかける。
恐らく相手は生活安全課。
あと、放火犯と啓人の身柄を押さえるための増援要請の為の電話だろう。
一颯は手汗で滑るハンドルをしっかり握り、啓人のアパートへ急ぐ。
気持ちを落ち着けながら。
大切な幼なじみの無事を祈りながら――。