「おい!紗佳は!?紗佳に何をした!?」
「紗佳なんて知らねぇよ!」さ
男は怯えたように首を横に振る。
「なら、此処で何してた!?」
「お、俺は……」
「そいつは放火事件の犯人だ」
荒ぶる一颯に対し、汐里は冷静な声で男に声をかける。
こいつが放火犯?
一颯が疑うような目を向ければ、男は顔を青ざめている。
「カマをかけてみたが、当たりか。だが、お前は此処の家の娘を知ってるはずだ。お前は昨日生活安全課の源という婦警にストーカーの行為を警告されている」
「ッ!?」
「シラを切らず、素直に言えば良い。早く言え。そうしないと、コイツの手が出るぞ」
汐里は今にも放火犯を殴りそうな一颯をちらりと見やる。
殴りたい衝動を理性で押さえつける一颯は息が荒くなり、怒りで顔が赤くなっていた。
放火犯の男は「ひぃっ」と情けない声を出しながら、自供した。
「お、俺はあそこのコンビニのゴミ捨て場に放火した!それは認める!でも、紗佳って奴には何もしてない!本当だ!」
「なら、何故此処で彼女の家の方を見てた?」
「脅されたんだよ!放火した所見られて、警察に黙ってる代わりに此処で家を見ていろって!」
「誰に脅された!?」
「浅川!落ち着け!」
汐里はさすがにこれ以上は……と感じ、一颯と放火犯を引き離す。
すると、放火犯のスマートフォンが鳴った。
汐里は目で放火犯に電話に出るように促し、放火犯の男は電話に出る。
「も、もしもし?え……?電話を代われ?」
放火犯はスマートフォンを手に、一颯と汐里を交互に見る。
「一颯ってどちらの刑事さんですか?で、電話を代わって欲しいと……」
「一颯は俺です。先程は失礼しました。スマートフォン、お借りします」
一颯は放火犯の男に頭を下げ、スマートフォンを受け取る。
恐らく電話の相手は紗佳をストーカーしている奴だ。
そして、恐らく今紗佳はそのストーカーと一緒にいる。
「おい、紗佳は無事なんだろうな?」
電話の相手は無言だ。
だが、電話口でも電話の相手が一颯の反応を楽しんでいるのが伝わってくる。
腹立たしかった。
「おい、何か言え!お前は――」
『すっかり刑事らしくなったな、一颯』
聞こえた声に、一颯は絶句する。
聞き間違えるはずがない。
だが、今聞こえて良い声でもない。
何せ――。
「啓人……?」
信頼する友人の声だったのだから――。