「さて、署に戻るか」
一颯は汐里の言葉に頷いて外していたシートベルトを閉め直すと、車のエンジンをかける。
すると、ポケットのスマートフォンに着信が入った。
ディスプレイには紗佳の名前が表示されており、一颯は汐里に一声かけてから電話に出る。
「紗佳?何か――」
『一颯君!助けて!ス、ストーカーが……ッ!』
「ストーカー!?紗佳、今何処に――」
『家の近く!助けて!いぶ――』
「紗佳?どうした、紗佳!紗佳!」
通話が途切れ、一颯は呼吸が乱れる。
汐里はスマートフォンから漏れた音漏れで状況を把握し、動揺する一颯を一喝する。
「しっかりしろ、浅川一颯!今、お前は何をするべきだ!?」
はっと我に返った一颯は汐里の方を見た。
彼女がそれに頷くと、一颯は後方を確認後ギアを入れ、乱暴にハンドルを切りコンビニの駐車場を弾かれるようにして飛び出した。
そんな一颯の横で汐里は雨の中窓を開け、車の天井に鳴らしたパトランプを乗せる。
「急いでいても事故るなよ。雨の日はスリップしやす――っおい!」
一颯は注意する汐里を他所にカーブで少し減速したと思えば、曲がる直前にギアを切り替えてアクセルを踏み込む。
それによって後輪を滑らせながらカーブを曲がった。
汐里は身体を振られつつも頭や身体を車の中にぶつけないよう手摺に掴まる。
「この馬鹿!署に戻ったら絶対始末書書かせるからな!」
「何枚でも書きますよ!でも、今は紗佳を……ッ!?」
コンビニと紗佳の家は近くだった。
すぐに紗佳の家の近くに差し掛かり、減速すれば紗佳の家の近くの電信柱の影に人影を見つける。
その人影はパトランプが鳴っている一颯達が乗る車が近付くと、一目散に走り出した。
一颯は車で人影を追い抜かし、進路を塞ぐように車を停める。
が、人影は来た道を引き返そうとする。
「待てェ!」
一颯は人影を捕まえるため車を飛び出し、雨の中を駆け出した。
雨がスラックスに跳ねるが気にしていられない。
人影は雨で足が取られたのか、体勢を崩した。
それをチャンスとした一颯は人影の肩を掴んで引き戻し、胸ぐらを掴み上げると壁に押し付けた。