「そうか。うちの後輩がソワソワしてるから気になってな。ありがとう」






汐里は電話を切るとサイドウインドウと所に腕を乗せて、頬杖をつく。
つまらなそうに窓の外を見つめ、ポツリと呟く。








「彼女の家の周りを重点的にパトロールを強化するそうだ」





「へ?」





「生活安全課に私の友人がいて、彼女のことを聞いてみた。彼女、ストーカーの相談をした後にお前のことを話していたらしい。信頼できる幼なじみで刑事だ、って」





汐里は頬杖をついたまま、顔だけを一颯の方へ向ける。
赤信号で止まり、一颯は彼女の方を見た。
その目に一颯は目を疑う。
汐里が今、彼に向けているのは優しいもので、先輩が後輩の成長が喜ぶそれだった。






「普段はポンコツなお前でも幼なじみにとっては立派な刑事なんだな」






「……褒めてるんですか、それ」






「褒めてる褒めてる。お前はポンコツだけど、刑事だよ。ほら、信号変わってるぞ」






一颯は少し照れ臭く感じながらもアクセルを踏み込む。
汐里の言葉は実際褒めているとは思えないが、一颯は素直に嬉しかった。
素直ではない汐里のことだ。
放火事件の現場に行くと行って、一颯を友人と幼なじみに会えるようにしてくれたに違いない。





「一つ聞いて良いか?」





「はい。紗佳のことですか?」





「いや、男の方。彼とは付き合いが長いのか?」





「啓人とは高校からの友人で。でも、昔からの友人よりも信頼できる奴です。啓人がどうかしましたか?」






「いや、別に」





汐里はふいっと外へ視線を戻してしまった。
何故そんなことを聞くのだろうか?
疑問に思ったが、聞いたところで彼女が答えてくれるとは思えないので、一颯は敢えて聞かない。
そして、汐里も疑問に思っても彼が聞いてこないと分かっていて質問をした。






二人は悪い意味でお互いのことを分かってしまっていた。
それが後々、悲劇へと繋がるとは予想していなかった。
予想していたら、きっと止められた。
そうすれば、あまりにも残酷すぎる結末を迎えることはなかった――。