一颯は電話を切ると、盛大なため息を吐く。
そして、紗佳の方を見た。
その目は少しばつが悪そうだった。
それもそうだ、仕事が落ち着いていると嘘をついたのだから。
「ごめん、紗佳。仕事に戻らないと……」
「忙しいのに、ごめんね。無理に時間作ってくれたんだね。今の人って上司?」
「いや、今のは一緒にペアで捜査してる先輩。女の人だけどめっちゃ怖い」
先輩だという女の人のことを言う一颯は怖いと言いつつ、何処か穏やかだ。
それは幼なじみであり、付き合いの長い紗佳だから分かる。
それは普段の穏やかとは違っている。
好きな人へ向けるものとも違う。
信頼しきっている人へ向けるそれだ。
「紗佳、俺は立ち会えないけど署の生活安全課に一緒に行こう。相談が終わったら、啓人に連絡入れて送ってもらうから」
「啓人君?急に頼んで大丈夫かな」
「大丈夫大丈夫。あいつ、暇人だから」
一颯は店員を呼んでテイクアウトのハンバーガーを注文し、スマートフォンを操作する。
啓人とは古賀啓人のことで一颯と紗佳の共通の友人だ。
現在転職活動中で暇をしているため、ストーカー被害に遭う紗佳を送り届けるには適材適所だ。
「啓人か?今からうちの署に来い。は?お前、聴取されるような悪いことしたのか?してないなら、黙って来い」
一颯は通話を切り、紗佳の方に親指と人差し指で作った○を見せる。
「啓人、今から来るって」
「……一颯君、啓人君の扱い雑だよね。昔から」
「信頼できるからできる雑な扱いだよ」
一颯はスマートフォンをスーツのポケットにしまい、まだ一口も飲んでいないロイヤルミルクティーに口をつける。
既に冷めてしまっているが、猫舌の彼にはちょうど良い。
紗佳も一颯に続くように、ロイヤルミルクティーに口をつけた。