「ストーカー?いつから?」
「二、三日前くらいから。最初は気のせいかと思ってたんだけど、昨日電信柱の影から私の部屋の方を見てたのが見えて……」
紗佳がストーカー被害に遭うのは今回が初めてではない。
前回のときも一颯が相談を受け、適切な方法でストーカーを止めさせることが出来た。
その時のストーカーは聞き分けが良い人物で、紗佳が怖がっていると分かって付きまといを止めている。
なら、何故ストーカーをしたのかと突っ込みたかったが、一颯はそれを耐えたのだった。
しかし、今回のストーカーが前回のような人物とは限らない。
警察が忠告して逆上し、ストーカー被害を相談した人が怪我をしたり、殺される事件が少なくない。
よって、ストーカーの相談の対処は慎重に行わなければならない。
「ストーカーの心当たりは?」
紗佳は首を横に振る。
大抵の人物は元交際相手がストーカーになっている場合が多い。
しかし、紗佳は愛らしい容姿とは裏腹に彼氏がいたことがない。
告白されても必ず断るため、まさに高嶺の花という言葉がピッタリだ。
ちなみに紗佳の理想の相手は一颯。
仮に一颯に告白されれば当然付き合うのだが、当の本人は紗佳を幼なじみとしか見ていない。
紗佳自身も自ら告白するつもりもない。
今の幼なじみという関係が壊れるのが嫌だという理由で。
「一先ず、うちの署の生活安全課に――」
すると、一颯のスマートフォンに着信が入る。
ディスプレイにはバディである署内の高嶺の花と言われる中身がオッサンの彼女の名前がある。
一颯は紗佳に「ごめん、出るね」と電話に出る。
「はい、浅川――っ!?声が大きすぎます!ボリューム下げてください!」
電話越しだというのに、電話の相手の声が丸聞こえだ。
怒鳴り声だが、声のトーンからして女だということが向かいに座る紗佳にも分かった。
「今何処だ!?」「仕事が溜まってるのに何呑気に出歩いている!?」という声が聞こえた。
どうやら幼なじみは紗佳を心配し、忙しい中で時間を作ってくれたようだ。
それが紗佳には嬉しかった。
「い、今戻ります!え?此処のテイクアウトのハンバーガー買ってこい?俺の居場所分かってるんじゃないですか!?」
声を抑えつつ、電話口に叫ぶ一颯の姿は捜査一課に配属された刑事とは思えない。
近い距離にいる交番の警察官のように親近感が湧く。