署に程近いカフェ。
OLや女子大生がこぞって訪れるそこはスーツ姿の一颯が行くには場違いな場所だった。
周りを見る限り、男は一颯だけ。
居心地悪いが、幼なじみが共にいるだけましかもしれない。
「ごめんね、仕事忙しいのに……。それに、こんな女子が来るような店で待ち合わせなんて……」
一颯の幼なじみ、小田切紗佳は申し訳なさそうに眉を下げる。
その姿はまるで、か弱い小動物だ。
小柄で可愛らしい容姿と相まって世の男達の庇護欲を煽るだろう。
が、例外がいる。
「気にしないで良い。ちょうど仕事が落ち着いたんだ」
一颯は紗佳の愛らしい仕草に見向きもせず、カフェのお洒落なメニューを見ている。
二人は幼い頃から共にいるせいか、距離感がおかしい。
普通なら恋人同士のような距離感で話すし、はぐれそうならば手だって繋ぐ。
だが、それはあくまで一颯が紗佳を女として意識していないから出来ること。
紗佳からしてみれば、それは複雑なことだったが……。
「とりあえず、俺はロイヤルミルクティーにするかなー。紗佳は?」
「私も同じのを」
「あ、全メニューテイクアウト可能……。帰りに何か買って戻るか」
メニューを見る一颯は物珍しさからか、楽しげだった。
その姿に紗佳はつい笑みが溢れる。
「ごめん、一人の世界に入ってた」
「こう見ると、やっぱり一颯君って刑事さんに見えないよね」
「先輩からもよく言われる。へたれのポンコツって」
「そこまでは言わないけど、昔から変わらないなーって思って」
ふと、紗佳の顔に影が落ちる。
見たところ元気そうにしていたが、紗佳の顔色はあまり良くなかった。
きっとメイクで隠しているつもりのようだが、目の下にはうっすら隈が見える。
学校が本当に忙しいのか、それとも――。
「相談って何?」
「実は私、ストーカーにあってて……」
紗佳の消えてしまいそうなほど小さな声はちょうど注文品を届けに来た店員の声にかき消された。
しかし、一颯の耳にはしっかり聞こえていた。