コツコツと暗闇に響くヒールの音。
カツカツと後ろから聞こえる革靴の音。
速くなるヒールの音。
それに合わせたように速まる革靴の音。





「誰なの……っ!?」





振り返っても誰もいなかった。
気のせいかと思って前を向いて歩き出せば、また革靴の音がする。
気のせいではなかった。
姿は見えないのに、足音がする。





「誰か分からないけど、着いて来ないで!」





そう叫んで、駆け出した。
自宅はすぐ傍だから走って玄関にたどり着き、中に入るなりすぐに鍵をかける。
慌ただしく玄関に入ったものだからお母さんがリビングから顔を出す。





「どうしたのよ。そんなに慌てて……」






「誰かにつけられてた……。振り返っても誰もいなくて……気持ち悪かった……」






玄関の敷居に座ってヒールを脱いでいると、お母さんが隣に膝をつく。





「貴女、前にも似たことあったことがあるんだから警察に相談しなさい。それか、一颯君に相談してみたら?近くの交番で働いてたわよね?」






「一颯君は捜査一課に異動なっちゃったから所轄にいるよ」






お母さんは警察官の幼なじみに相談しろと軽々しく言うけど、彼は捜査一課に異動になっている。
多分この相談は課が違う気がする。
でも、相談してみようかな……。






自室に向かい、バッグからスマートフォンを取り出して幼なじみの連絡先を探す。
そして、電話を掛ける。
彼に電話するのは久し振りだ。
私は大学院の方が、彼は仕事が忙しくて顔も合わせる暇がない。
近くの交番で働いてた頃はよく会っていたのに。






『もしもし』





「一颯君?私だけど」





電話口から聞こえた幼なじみの声に、妙な安心感を覚えた。
捜査一課なんて刑事ドラマに出てくるような所に異動して、彼は変わってしまったかと思ったけど変わっていなかった。





「元気だよ。ただ、学校の方が少し忙しいかな」





電話をしながらカーテンを少しだけ開ける。
すると、電信柱の影に人がいた。
じっとこっちを見ている。
気持ち悪くて、すぐにカーテンを閉めた。





「でね、一颯君に相談したいことがあって……」





きっと幼なじみの彼なら力になってくれる。
昔は気が弱くて大人しかったけど、今の彼は警察官らしく凛としている。
だから、きっと……。





きっとストーカーのことをどうにかしてくれる――。