「京さん!さっきの人、《green》の防犯カメラに映ってた人ですよ!」
「え?」
再度ミント味のタブレット菓子を食べようとしていた汐里は口にそれを放り込む体勢で止まり、一颯の方を見た。
《green》の防犯カメラの映像は今日の家宅捜索前に捜査のために任意で提供してもらい、既に見終えてディスク化している。
一颯はPCを開いて、防犯カメラの映像が収められたディスクを再生する。
「この人!被害者に殴られてるこの人です!」
防犯カメラの映像はあまり画質が良くなかった。
しかし、解析によって幾らか鮮明になり、人の顔が判別出来るまで画質が良くなっていた。
今、一颯のPCには殺害された被害者、高坂要が先ほど会った青年を殴る蹴るの暴行をしている映像が映っている。
これは完全に暴行傷害罪になり、青年が被害届を出せば立件できる事案だ。
「彼は被害届を出していないのか?」
「問い合わせてみますか?」
「いや、もし、出されていたら被害者が殺害された時点でその話は回ってくる。回ってきてない所を見ると、彼は被害届を出していない」
汐里は椅子のまま一颯のデスクの方へ来ると、PCの映像を切り替える。
次に流れたのは外に設置された防犯カメラのもので、そこには先ほどの青年が雨の中で倒れていた。
そんな彼に誰かが傘を差し出し、青年の姿が見えなくなる。
それと同時に、防犯カメラの映像も切れてしまった。
「何で途中で切れる!?」
「耳元で騒がないでください!て、店主が言うには故障ではないかと言っていたみたいです」
一颯は間近で汐里に怒鳴られ、耳がキーンと痛くなった。
本当に故障ならば、タイミングが悪すぎる。
もしかしたら、犯人逮捕への証拠になるはずだった映像が収められていたかもしれないというのに。
汐里は盛大に舌打ちをつくと、自分のデスクの方へ戻っていった。
「被害者を恨む人物は恐らく片手では足りないくらいいるだろうな。ドラッグの売人、売春の斡旋、恐喝、恫喝、暴力。悪魔を具現化したような男だったようだからな」
「ですが、殺されて良い人間はこの世にはいません。どんなに悪魔のようで、人を苦しめた悪い人間でも殺されてしまえば、被害者です」
「分かってる。私は今回の事件に関しては被害者より犯人に同情してしまうな」
汐里は椅子の背凭れに天井を見上げるように寄りかかった。
その横顔はまるで、彼女自身殺したい人がいるような雰囲気を醸し出していた。
考えてみれば、一颯は彼女のことを何も知らない。
知ってることと言えば、父と兄のこと、中身がオッサンということだけだ。