「詳しくは署で聞かせて頂けますか?」






汐里の言葉に、店主は力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
そんな店主を捜査員が両脇から挟んで立たせ、外に停めてある車へ連れていく。
汐里がその後をついて行った為、一颯もその後を追いかける。




「捜査一課の姫なんて言ったのは誰だ?姫って言うより……」





「しっ!聞こえるぞ。あの子は司馬課長のお気に入りだからな。綺麗な顔して、やることは隙のない刑事だ」






通りすがり、捜査員達がそんな会話をしているのが聞こえた。
今の汐里のやり方には賛否両論あるかもしれない。
しかし、犯罪は誰かが止めなくてはならない。
犯罪を止める、それが警察の役目だ。






「あの!」




一颯が外に出れば、一人の青年に声をかけらた。
年齢は一颯や被害者と似たような風貌で、顔には痛々しい青あざがあり、頬や口許には絆創膏が貼られている。
暴行を受けた、それが見て分かる。






「どうかしましたか?それに、貴方の顔の傷……」






「この傷はちょっと……。それより、此処のバーの店主捕まったんですか?」






「お答えすることは出来ません。では」





そう答えたのは汐里だった。
人が良い一颯なら答え兼ねないと彼女が釘を差しがてら彼を引っ張りに来たのだ。
現に一颯は口が滑りかけた。
警察足るもの口が固くなければならないというのに。






「お前、ペロッと言いそうになっただろ?」






「す、すみません……。京さん、あの人何処かで見覚えありませんか?」






「さあな。戻るぞ」





一颯は署に戻る車の中でも青年のことが気がかりだった。
何処かで見た覚えがある。
でも、何処だっただろうか?
思い出せない。






「あ!思い出した!」







署に着いて、自分のデスクについてハッと思い出した一颯は鞄を漁る。
そんな彼の行動を汐里は気にせず、デスクに置いていた眠気覚まし用のミント味のタブレット菓子を手に取って数粒口に放り込む。
口の中がスースーするが、眠気はあまり飛ばなかった。