「私のイメージねぇ……。じゃあ、これ、貴方が飲んで貰えます?私、仕事中なんで」
汐里はカクテルグラスをすっと店主の前に差し出す。
一颯や捜査員達に漸く彼女の意図が分かった。
恐らく店主はドラッグを使っていない。
ならば、ドラッグ入りの酒を飲むとは思えなかった。
現に店主は顔を青ざめている。
「どうしましたか?折角作って貰ったので飲まないのは申し訳なくて。お酒の匂いと誘惑に負けて、つい仕事中と忘れて頼んでしまいました。刑事失格ですね」
「いや、私は禁酒中でして……」
店主は鼻の下に生やしたちょび髭を動揺したようにしきりに触っている。
視線も泳ぎ、ちょび髭だけでなく、顔も掻いている。
人は嘘をつくとき、視線が泳いだり、顔を触る場合が多い。
つまり、この店主は嘘をついている。
「あら、そうなんですか?じゃあ、そこにある飲み過ぎた時に飲むドリンク剤の空き瓶ってなんでしょうか。私もよく飲むんですよね、それ。クソ不味いけど良く効く」
汐里の視線の先には彼女自身、飲み過ぎた時によく飲んでいるドリンク剤の空き瓶が何本か置いてあった。
バーの店主が酒を飲まないとは思えない。
それに、押収物にある酒の中にはプレミアものもあり、酒好きでなければ買わないものだ。
「……自白の強要にあたりませんか、それは?」
店主の目がカクテルから汐里に向けられる。
が、汐里は口角を上げ、クスリと笑う。
店主は自分で墓穴を掘ってしまったことに気づいていない。
彼は上手く逃げようとしたようだが、それは汐里が狙って逃げ道を作っていたのだ。
逃げ道が落とし穴とも知らずに。
「自白?私はただ、仕事中なのを忘れてカクテルを作って欲しいと言ってしまい、勿体無いから貴方に飲んで貰おうとしただけです。それなのに自白の強要?貴方には自白すべき疚しいことがあるんですか?」
そこまで来て、店主は漸く自ら墓穴を掘ってしまったことに気づいた。
自白の強要ではないかとと自ら言ってしまえば、『自らに疚しいことがあるので言いませんよ』と言っているようなもの。
本当に疚しいことがなければ、そんなことは言わないはずだ。