「うちがドラッグ入りの酒を提供してる?そんな馬鹿な……」





捜査員を連れ、バー『green』へ家宅捜索に来た汐里は令状を店主に見せる。
令状を見せられては店主も抵抗できない。
抵抗すれば、怪しまれる。
それ以前に家宅捜索の令状が出ている時点で、怪しまれているのだ。





「令状はあります。ご協力を」






拒否できないように声に圧を込め、汐里も酒瓶を押収している一颯の隣に行き、押収に加わる。
酒瓶には見慣れた日本酒やリキュールの他にも輸入物のウイスキーやワイン等が並んでいる。
だが、肝心のものが見当たらない。
酒に混ぜるのだから酒が置かれた棚やその付近にある可能性が高いというのに。






ふと、汐里の視線に一本のリキュールが目に入った。
それはホワイトキュラソー。
オレンジを原料とした無色透明の軽い甘味が特徴的なリキュールだ。
主にカクテルに使われ、お菓子作りにも使われる場合がある。





「無色透明……」






「それ、リキュールですか?あれ、それだけ異様にたくさんありませんか?」





一颯は棚の下にある収納スペースを開けると、一本手に取る。
それを汐里は受け取ると栓を開け、匂いを嗅ぐ。
そして、ハッとした。
香りがないのだ、キュラソー独特のオレンジの香りが。






汐里はその瓶を手に、店主に近付く。
そして、その瓶を店主の前に置くとにっこりと笑った。
その笑みは普通の人が見れば顔を赤らめるほどの美しさだが、店主からしてみれば悪魔の微笑みだ。





「これでいつもみたいにカクテル作ってみてくれますか?そうだな、おすすめをお願いします」





「か、畏まりました」





店主は動揺しながらもカクテルを作り始める。
捜査員達はバーカウンターに肘をついて覗き込んでいる汐里を不思議に思いながらも仕事はしていたが、一颯はハラハラしていた。
仕事中に酒飲むの?などとすっとんきょうなことを考えていた。





「お待たせ致しました」





汐里の前に置かれたのはカクテルグラスに入ったオレンジ色のカクテル。
名前を聞けば、「貴女をイメージして作ったものなので」と濁される。
オレンジ色が汐里のイメージ?
一颯はそんなイメージを汐里に抱いたことはない。
日頃栄養ドリンクを飲み干すオッサンのような姿を見ていれば、オレンジ色のイメージは浮かばない。