「このクソ警視!」
汐里は暴言と共に通話を切った。
その暴言は縦社会の警察にとってはかなり、いや、相当問題のあるものだ。
警視と言えば、階級的には上の方。
つい先日まで交番勤務をしていた一颯はまだまだ先の、なれるか分からない階級だ。
「京、それヤバい。さすがにクソはヤバい」
「うるさい、黙れ赤星。あの馬鹿兄、キャリア組だからって調子に乗ってるんだ」
「え、キャリア組!?」
一颯が声を張ると、汐里に睨まれた。
キャリア組と言えば、警察庁に働く優秀な警察官達のことだ。
将来が約束され、何の問題もなければ出世街道まっしぐら。
そんな人が汐里に兄とは……。
「警察庁の京侑吾警視。まだ三十手前なのに警視、優秀で周りからの信頼も厚い。顔は京に似てる」
「赤星、余計なこと言わんで良い」
「んで、何で喧嘩してた?というか、一方的に京がキレてたみたいだけどな」
「……弟達の運動会の日、仕事かゴルフになるかもって言ってたんです。真ん中の弟は今回で最後の運動会なのに」
汐里は唇を尖らせつつ、椎名の問いに答える。
話によれば、京家は五人兄弟。
上から男女男男男、女は汐里だけ。
年齢は上は二十七歳、下は十歳。
汐里の男勝りな性格は男だらけの兄弟で育ったからなのかもしれない。
「うちは父親がいないから保護者の部門は兄か私が出ないといけないのに、あの馬鹿は私か上の弟が出れば良いって」
「上の弟君って何歳?」
「今年一七になります」
「まあ、保護者にカウントされても良いのかなー?」
「高校生は学生、保護者じゃない。黙ってろ、赤星」
汐里に睨まれた赤星は「俺にだけ冷たい!」と嘆く。
が、睨んだ当の本人は無視だ。
もしかしたら、存在すら消しているのではと思うくらい無視だ。
一颯は兄弟が多いのも大変だなーと思いつつ、ツナマヨのおにぎりにかじりつく。
「まあ、面倒な事件が起きない限り私は休みをもぎ取るけどな」
汐里はフンと鼻を鳴らし、自宅近くのパン屋の菓子パンにかじりつく。
あー、そんなことを言っては事件が起きるって。
一颯は内心そう思うが、口には出さない。
出せばとばっちりが来て、恐ろしいか。